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ファントム・アポカリプス エピソード:モビリン=コッドロッド

 無限の情報を取り扱うゴブリンの一族がいた。遺伝によって情報を蓄積し、
常に世界を歩き続ける流浪の旅団、コッドロッド一族。モビリンは数年前、
この一族と他種のゴブリンとの間に生まれた混血の少年だった。
彼には腹違いの兄がいた。同じくコッドロッド一族に属し、名をジーグレイ=コッドロッドという。
遺伝による情報伝達の効率を上げるため、滅多に子孫を増やすことのないこの一族の中で、
ジーグはモビリンの唯一の遊び相手だった。彼が全てを失うことになるその日までは。

 その日は突然訪れた。彼は仲間の叫び声で目を覚ます。目の前に何かが転がっている。
それは父親の死体だった。モビリンはあまりの衝撃に泣き叫ぶことすらできない。
そのとき視界に入った1人の男の姿を見て、彼は理解した。これは吸血鬼アリシュナの仕業だ。
その男は頭からコウモリの羽を生やしていた。間違いなくアリシュナが作り出したキメラだ。
そして今、その男が自分のもとへと歩いてくる。彼は自らの死を感じ、その恐怖に気絶してしまった。

 やがて彼は、惨劇の舞台から少し離れた森の中で目を覚ました。何が起こったのか?
ふらつく足で再び一族のもとへ辿り着いたモビリンは、1人ずつその生死を確かめていった。
彼のわずかな希望もむなしく、皆死んでいた。しかし、モビリンは泣かなかった。
今の彼を支配していたのは、仲間を失った悲しみではなく、アリシュナへの激しい怨念だった。
ふと気付く、ジーグの姿がない。彼だけは運よく逃げ延び、助かったのだろうか?
この日から彼の目的は、兄との再会と、憎き魔物達への復讐となった。

 それから十数年、彼は旅を続け、自らの戦力となってくれる者を探した。
奴等の居場所は分かっている。すでに兄がそこにいることも分かっていた。
だが、怨念に身を任せ、やみくもに独りで乗り込んだところで、
待っているのは己の死と深い絶望感だけである。確実に奴等の息の根を止め、
その存在をこの世界から完全に排除する。その為の準備には何年を費やしてもいい。
そして、彼は見つけた。ついに来たるべき時が来たのだ。

 話によるとその魔法使いは失われし禁術を復活させようとしているらしい。
禁術に関する言い伝えは未だ各地に数多く残っているが、全ての地方で削除された項目がある。
モビリンは知っていた。それはその禁術を完成させるために必要となる最後の材料、
魔狼の心臓である。彼にこれを持っていけば、力を貸してくれるに違いない。
モビリンは永久に溶けることのない氷に覆われた「生無きの山」へと登っていく。

 魔狼はそこにいた。どんなに熱されようとも、また毒され、少々の傷をつけられようとも、
決して止まることなく動き続ける魔狼の心臓。魔狼を倒すにはその心臓を抜き取るしかない。
しかし、方法は分かっている。モビリンは一角獣の角で作られたナイフを取り出すと、
魔狼の唯一の弱点である右目に突き刺した。うずくまる魔狼に斧を振り下ろし、首を切断する。
彼はそのまま切り口から腕を押し入れ、心臓を取り出した。魔狼の動きは完全に停止した。
これを魔法使いに渡せば…こうして彼の準備は全て整ったのだ。

 復讐にふさわしい奇麗な満月の夜、モビリン、ルイ、ハイチの3人は、
アリシュナの居城へと乗り込んだ。門の奥で彼らを待ち受けていたのは、
おびただしい数のコウモリの群、そこで彼は見つけた。あの日から少しも変わっていないその男。
彼は叫ばずにはいられなかった。2人を先に行かせ、まずはこの男を殺す。
しかし、男は何も知らないような顔をしている。思わず彼は叫んだ。

 「コッドロッドの名…忘れたとは言わせねぇぞ!?」

 その一言に男の表情が変わる。襲い来るコウモリの群。彼は慌てず、懐からナイフを取り出す。
吸血鬼等闇の眷族達に対する攻撃には、古より聖なる刻印を施した武器が使われてきた。
モビリンはそれを男に向かって投げつける。しかし、彼の目的は男を突き刺すことではない。
そのナイフは柄の部分にある安全装置を外すと、衝撃を与えてから数秒で爆発する爆弾となる。
それは聖なる攻撃であり、闇に属さないもの、特に彼のような聖なる衣をまとった者に対しては、
衝撃は皆無に等しい。モビリンは男に別れの言葉を吐き捨てると、2人とは違う部屋へ進んだ。

 感じる。そこにジーグがいる。轟音が鳴り響く扉を突き破った。やはり、彼はそこにいた。
しかし、それはもはやジーグではない。彼は1度死に、シモン=パップスとして蘇った。
そしてその不完全な蘇生により、自我を失った。シモンは凄まじい力でモビリンに掴みかかる。
モビリンはわかっていた。しかし、抵抗できなかった。

 「ぐ…ジーグ、兄さん…」

 突然、シモンの様子が変わった。そして、彼は無言のままその場に立ち止まり、
自らの胸を指差した。

 「そんな…嫌だ!」

 シモンはジーグを取り戻した。そして、死を望んだのだ。モビリンがどんな言葉を叫ぼうとも、
彼の決意が変わることはなかった。やがてモビリンは銃を構えた。

 「さらば…その無念は、アリシュナの死をもって晴らそう。」

 彼は聖銃の引き金を引いた。

 2人の跡を追い、破壊された扉まで辿り着いた。しかし、その部屋には誰もいない。
その先に進んだ形跡もない。まさか2人ともやられてしまったのかだろうか…

 「どこ見てんの?こっちこっち。」

 天井から何かが飛び降りてきた。黒い髪、獣のような耳、何かの獣人であることは間違いない。
奴等の仲間なのか?モビリンは銃を構えた。

 「おいおい、言っとくけど、俺は奴等の仲間じゃないから。」

 「そうか、じゃあお前はなんでここにいるんだ?」

 「なんでもいいじゃん。倒すんでしょ、アリシュナ。」

 ルイとハイチがどうなったのか気になるところだったが、今はアリシュナのもとへ急ぐべきだ。
男はセンガと名乗った。モビリンはセンガと共に城の最上階へと続く階段を駆け上っていく。

 「この扉の向こうに奴がいる…センガ、行くぞ!」

 「オッケー。」

 2人は扉を突き破った。薄い銀色の髪に白い肌、そして裂けるほどつり上がった両目。
アリシュナがそこに立っていた。

 「見つけたぜ!アリシュナアアアアア!」

 「何を熱くなっている?おかしな奴等だ。」

 「おい、そんなに熱くなるなって、奴のことはよく知ってるだろ?簡単に勝てる相手じゃない。」

 「…そうだな。」

 「ここはチームプレーといこうよ。俺が至近距離で奴を引き付ける、好きなだけ撃ち込んでやりな。」

 センガは言い終わると同時にアリシュナに向かって走り出した。モビリンは銃を構える。
アリシュナの衝撃波を避けつつ確実に撃ち込む、センガは隙を見つけては攻撃を繰り返す。
このままいけばあの憎きアリシュナを倒すことができる。そう思った瞬間、アリシュナが笑った。

 「まずは1人ッ!」

 「ッ…しまっ…」

 モビリンの体を甲冑の剣が突き刺していた。

 「センガ、頼む…仇を…」

 モビリンは力尽きた。彼の復讐は失敗に終わった。彼は深き眠りにつく。その眠りは…
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