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ファントム・アポカリプス エピソード:スーナイ

 ある家族が死んだ。1人の吸血鬼によって殺された。

 テミストは森の中で姉、母と共に、父を探していた。数日前に行方不明になったのだ。
1昼夜探し続け、彼が見つけたものは、父の亡骸とそれを見て発狂する家族の姿だった。
次の瞬間、母親は包丁を取り出すと、一瞬の躊躇もなく姉を刺した。
テミストは、次は自分の番であることを悟り逃げようとした。しかし、数歩走ったところで、
彼の背中に包丁が突き刺さった。薄れゆく意識の中で彼が目にしたのは、
自分の背中から包丁を抜き、自らの首にそれを突き刺す母の姿だった。
だが、それで終わりではなかった。彼らは死者となってからも解放されることはなかったのだ。
それは亡き父への執着なのか、あるいは安易な死に対する天罰なのか。
どちらにせよ、悪霊と化した2人とこれからも行動を共にするのは、彼にとって恐怖でしかなかった。
それを解放してくれたのが、吸血鬼アリシュナなのである。アリシュナは言った。

 「貴方に新たな世界を与えよう。我についてくるがいい。」

 彼は迷わずアリシュナへの服従を決断した。2人の悪霊はアリシュナによって消滅し、
彼は安らぎと自由を手に入れたのである。

 これがテミストの、スーナイの現在の記憶である。

 吸血鬼に血を吸われた者は、記憶を改ざんされ、好きなように操られてしまう。
真実は、アリシュナが4人家族を殺し、長男の生血を啜った。これだけである。
アリシュナは普段吸血対象を殺すが、テミストから血を吸ったとき、何かを感じ彼を下部にした。
そしてテミストはアリシュナの忠実なる右腕、スーナイとなり、彼に命令されるがままに動いた。

 ハイブリッドブラッド計画に唯一の適合者が現れた後、スーナイはアリシュナの真の目的を知る。
千年王妃の復活。それはすなわち、この世界のありとあらゆる種族の壊滅を意味する。
アリシュナは千年王妃を妻に迎え、この世界の支配者になろうとしているのだ。
それからスーナイは何年も研究を重ねた。そして1つの可能性を見つける。
この世界に知らぬものはないとされるゴブリン族の旅団、「コッドロッド一族」。
彼らが何かを知っていることは間違いないだろう。しかし、協力してもらえるとは思えない。
そこでスーナイは、この一族を滅ぼし、死体を蘇生させて記憶を全て抜き出そうと考えた。

 行動は迅速に行われた。スーナイはコッドロッド一族の死体の中から1人を選び、
城へと持ち帰った。彼はさらに研究を重ね、慎重に蘇生術を編み出していった。
その過程でこの死体はシモン=パップスと名付けられる。やがてついに蘇生術は試され、
死体は再び目を覚ました。だが次の瞬間、シモンはスーナイに掴みかかった。
シモンは自我を持っておらず、本能から自分に近づく者に襲いかかったのだ。
スーナイは左目をえぐられ、顔を含め、全身に深いアザを刻みつけられた。
これ以上は危険と判断し、シモンは地下の牢屋に閉じ込めることとなった。

 計画は膨大な資料だけを残し、1からの出直しとなった。スーナイは脱力感を感じることもなく、
再び新たな研究に着手した。あらゆる手法を手当たり次第に試していくことにしたのだ。
現時点で1番正解に近いと思われる方法は、特殊な魔法陣による召喚の儀式を行うこと。
これにふさわしい生贄を用意するのが彼の次なる目的となった。タイミングよく、
城をたった3人で訪れた愚か者たちがいるという、スーナイは彼らを生贄にしようと考え、
アリシュナにこれを提案した。

 ほどなくして彼のもとを訪れたのは、魔法使いと幽霊の2人。もう1人は既に捕らえたか、
あるいは力尽きたのか。ところが、その幽霊の姿を見た瞬間、凄まじい憎悪が彼を包んだ。
そこで彼は理解した。姿は違うが、奴は自分に不幸をもたらした張本人、私の父だ。
それまで生贄にしようと思っていたものは、憎しみの対象でしかなくなった。
スーナイは彼らを一刻も早く視界から消し去りたくなった。まずは魔法使いを殺す。
いついかなる時、どんな場合であろうとも、スーナイの行動には一切迷いがない。
それはアリシュナの洗脳によってもたらされたものだった。しかし、このときだけは違った。
彼は父の問いに無意識に答えていた。少しの間会話が続き、ふと我に返った彼は、
自らの体に突然起こった変化に戸惑った。違和感を掻き消すため、父を拒絶し、攻撃を放つ。
さすがに父も諦めたのだろう。自分に攻撃を仕掛けてきた。

 この程度の攻撃、スーナイにとってどうということはなかった。死者の攻撃も、
同じ死者たる彼にはただの非力な一撃にすぎない。今すぐにその存在を消し去ってやる。
そう思ったとき、彼はあるものを目にする。母の姿…それも自らの記憶と明らかに異なっている。
発狂し、悪霊となり果て、アリシュナの手によって滅ぼされたはずの母の、
あの優しげな頬笑みは何だ?激しい頭痛と共に、スーナイの洗脳が徐々に解かれていく。
彼は気付いた。悪霊となり果てていたのは、この自分自身だ…
スーナイは自ら消滅を望んだ。

 望むべき最期ではなかったのかもしれない。だが、彼の魂は、真の解放を手に入れた。
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