忍者ブログ
虚節イッター:記事を更新したいお年頃になってしまったようです
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ファントム・アポカリプス エピソード:スーナイ

 ある家族が死んだ。1人の吸血鬼によって殺された。

 テミストは森の中で姉、母と共に、父を探していた。数日前に行方不明になったのだ。
1昼夜探し続け、彼が見つけたものは、父の亡骸とそれを見て発狂する家族の姿だった。
次の瞬間、母親は包丁を取り出すと、一瞬の躊躇もなく姉を刺した。
テミストは、次は自分の番であることを悟り逃げようとした。しかし、数歩走ったところで、
彼の背中に包丁が突き刺さった。薄れゆく意識の中で彼が目にしたのは、
自分の背中から包丁を抜き、自らの首にそれを突き刺す母の姿だった。
だが、それで終わりではなかった。彼らは死者となってからも解放されることはなかったのだ。
それは亡き父への執着なのか、あるいは安易な死に対する天罰なのか。
どちらにせよ、悪霊と化した2人とこれからも行動を共にするのは、彼にとって恐怖でしかなかった。
それを解放してくれたのが、吸血鬼アリシュナなのである。アリシュナは言った。

 「貴方に新たな世界を与えよう。我についてくるがいい。」

 彼は迷わずアリシュナへの服従を決断した。2人の悪霊はアリシュナによって消滅し、
彼は安らぎと自由を手に入れたのである。

 これがテミストの、スーナイの現在の記憶である。

 吸血鬼に血を吸われた者は、記憶を改ざんされ、好きなように操られてしまう。
真実は、アリシュナが4人家族を殺し、長男の生血を啜った。これだけである。
アリシュナは普段吸血対象を殺すが、テミストから血を吸ったとき、何かを感じ彼を下部にした。
そしてテミストはアリシュナの忠実なる右腕、スーナイとなり、彼に命令されるがままに動いた。

 ハイブリッドブラッド計画に唯一の適合者が現れた後、スーナイはアリシュナの真の目的を知る。
千年王妃の復活。それはすなわち、この世界のありとあらゆる種族の壊滅を意味する。
アリシュナは千年王妃を妻に迎え、この世界の支配者になろうとしているのだ。
それからスーナイは何年も研究を重ねた。そして1つの可能性を見つける。
この世界に知らぬものはないとされるゴブリン族の旅団、「コッドロッド一族」。
彼らが何かを知っていることは間違いないだろう。しかし、協力してもらえるとは思えない。
そこでスーナイは、この一族を滅ぼし、死体を蘇生させて記憶を全て抜き出そうと考えた。

 行動は迅速に行われた。スーナイはコッドロッド一族の死体の中から1人を選び、
城へと持ち帰った。彼はさらに研究を重ね、慎重に蘇生術を編み出していった。
その過程でこの死体はシモン=パップスと名付けられる。やがてついに蘇生術は試され、
死体は再び目を覚ました。だが次の瞬間、シモンはスーナイに掴みかかった。
シモンは自我を持っておらず、本能から自分に近づく者に襲いかかったのだ。
スーナイは左目をえぐられ、顔を含め、全身に深いアザを刻みつけられた。
これ以上は危険と判断し、シモンは地下の牢屋に閉じ込めることとなった。

 計画は膨大な資料だけを残し、1からの出直しとなった。スーナイは脱力感を感じることもなく、
再び新たな研究に着手した。あらゆる手法を手当たり次第に試していくことにしたのだ。
現時点で1番正解に近いと思われる方法は、特殊な魔法陣による召喚の儀式を行うこと。
これにふさわしい生贄を用意するのが彼の次なる目的となった。タイミングよく、
城をたった3人で訪れた愚か者たちがいるという、スーナイは彼らを生贄にしようと考え、
アリシュナにこれを提案した。

 ほどなくして彼のもとを訪れたのは、魔法使いと幽霊の2人。もう1人は既に捕らえたか、
あるいは力尽きたのか。ところが、その幽霊の姿を見た瞬間、凄まじい憎悪が彼を包んだ。
そこで彼は理解した。姿は違うが、奴は自分に不幸をもたらした張本人、私の父だ。
それまで生贄にしようと思っていたものは、憎しみの対象でしかなくなった。
スーナイは彼らを一刻も早く視界から消し去りたくなった。まずは魔法使いを殺す。
いついかなる時、どんな場合であろうとも、スーナイの行動には一切迷いがない。
それはアリシュナの洗脳によってもたらされたものだった。しかし、このときだけは違った。
彼は父の問いに無意識に答えていた。少しの間会話が続き、ふと我に返った彼は、
自らの体に突然起こった変化に戸惑った。違和感を掻き消すため、父を拒絶し、攻撃を放つ。
さすがに父も諦めたのだろう。自分に攻撃を仕掛けてきた。

 この程度の攻撃、スーナイにとってどうということはなかった。死者の攻撃も、
同じ死者たる彼にはただの非力な一撃にすぎない。今すぐにその存在を消し去ってやる。
そう思ったとき、彼はあるものを目にする。母の姿…それも自らの記憶と明らかに異なっている。
発狂し、悪霊となり果て、アリシュナの手によって滅ぼされたはずの母の、
あの優しげな頬笑みは何だ?激しい頭痛と共に、スーナイの洗脳が徐々に解かれていく。
彼は気付いた。悪霊となり果てていたのは、この自分自身だ…
スーナイは自ら消滅を望んだ。

 望むべき最期ではなかったのかもしれない。だが、彼の魂は、真の解放を手に入れた。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
11 2024/12 01
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
必読・重要記事
新基(FAQ)

密集(コメントへの返答)

空言(掲示板リンク&使い方)

共感(カテゴリー解説)

拾人(管理人について)

総括(まとめ@wiki)
更新情報
総括」最終更新日:2014.03.09

年表」最終更新日:2012.09.17

分別」最終更新日:2012.10.09

評漫」最終更新日:2013.03.03

其肆」最終更新日:2013.03.03

七二」最終更新日:2013.03.24

柱線」最終更新日:2015.02.01

替歌」最終更新日:2016.08.14
ブログ内検索
過去アーカイブ
2018
01 02

2017
07 10 11

2016
01 02 03 04 05 06 07 08

2015
01 02 12

2014
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2013
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2012
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2011
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2010
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2009
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2008
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2007
09 10 11 12
新着コメント
[02/18 わらもこと]
[06/15 拾人]
[06/12 s]
[10/23 ブラッディX]
[08/11 拾人]
最新記事
(02/10)
(02/04)
(02/03)
(02/01)
(01/31)
(01/30)
(01/29)
(01/28)
(01/27)
(01/26)
(11/28)
(10/25)
(07/08)
(09/25)
(09/08)
(09/04)
(09/01)
(08/23)
(08/11)
(08/07)
プロフィール
HN:
拾人
性別:
男性
QRコード
アクセサリ
忍者ブログ [PR]