忍者ブログ
虚節イッター:記事を更新したいお年頃になってしまったようです
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

その日僕は、自分に弟がいたということを知りました。

その日は学校の授業で、命について勉強しました。

先生は「人はみんな役目を持って産まれ、その目的のために頑張って生きている」と言いました。

僕はそのときもちろん自分の役目なんて知らなかったし、全然納得できませんでした。

帰り道、すれ違った近所のおばさんに「僕はなんで生きてるの?」と聞いてみると、
おばさんは「さあねぇ、そういうのはお母さんにでも聞いてみなさい」と言いました。

僕はお母さんは答えを知っているのかと嬉しくなり、急いで家に帰りました。

早速お母さんに「僕はなんで生きてるの?」と聞いてみました。

するとお母さんは急に震えだし、とても怖い顔で

「アイツが弟の方を殺せって言ったから…っ!!」

PR

私がまだ幼かった頃、爺ちゃんとよく山に出かけました。

畑の肥料になる落ち葉を集めたり、木の実を取ったり、ただハイキングに行くだけのときもありました。

ある日、いつものように落ち葉を拾っていると、
森林の奥を何か白いものが走っているのが見えました。

私は爺ちゃんに「あれなに?」と聞きました。

爺ちゃんは暫く辺りを見回していましたが、何も見えない様子でした。

でもそのときはまだ私にはそれが見えていました。

それを目で追う私を見て、いきなり爺ちゃんが「そいつは白い色をしたやつか?」と聞きました。

私がうなずくと、爺ちゃんは村の守り神について教えてくれました。

ヤマヌシ(山主)といって、白いイノシシの姿をしているのだそうです。

この地に昔から住んでいる人々や生き物を護ってくれるやさしい神様なのですが、
余所から入ってきた敵には容赦しないとのこと。

また、ヤマヌシに触れることは出来ませんが、ヤマヌシの方からこちらへ走ってくることがあり、
自分の身体をすり抜けられるとその年は良い事があると言われているそうです。

そしてその姿も歳をとるほど見えなくなっていくと教えられました。

当時の私は生きているイノシシを見たことがなかったので、
あれがイノシシという生き物なんだと思ったのを覚えています。

数年が経ち、私もヤマヌシに関していろいろなところで話を聞きました。

どうやら大人なら村の誰もが知っている存在のようでした。

実際にヤマヌシにすり抜けられたと言う人もいて、彼はその年に持病が完全に治ったそうです。

それから暫くしてまた爺ちゃんと山へ行ったとき、再びヤマヌシを見ました。

不思議とその頃は怖いとは思わず、あのときのイノシシに再び出会えて嬉しいと思いました。

そのときのヤマヌシは、よく見るとうっすらと透けていました。

以前見たときは真っ白な身体で少なくとも透けてはいませんでした。

このとき爺ちゃんの言っていた「歳をとるほど見えなくなっていく」という言葉を思い出しました。

すると突然、ヤマヌシがこちらへ物凄い速さで走ってきました。

まだ子供だった私は当然動くことが出来ず、その場に倒れそうになりましたが、
ヤマヌシはそのまま私の身体をすり抜けてどこかへ走り去ってしまいました。

すぐに爺ちゃんのところへ走って行き、その話をすると、爺ちゃんは大喜びでした。

「そりゃあええことじゃ、今日はお祝いせんとな。」

その日はヤマヌシに通り抜けられた日にするというお祝いをしてもらいました。

私はその日から苦手だった勉強がなぜか好きになり、村で一番勉強が出来るようになりました。

そのお陰もあり、都会へ出て学校に進学させてもらえることになりました。

小学校の高学年からの編入でしたが、勉強についていけないといったこともなく、
そのまま中学、高校、大学とトップクラスの成績で進学することが出来ました。

ある日、大学で出来た友人が私の村へ行ってみたいと言いました。

よく話す友人でヤマヌシの話もしていたため、興味を持ったそうです。

私も大学に入ってからは実家へ帰ることも少なくなっており、
丁度いい機会だと思って友人と一緒に里帰りすることにしました。

当日は私の車に友人を乗せ、二人で途中の店に寄ったりしながら、1日かけて帰りました。

村に着いた頃にはすっかり日も暮れて、二人ともかなり疲れていました。

一刻も早く家に上がって横になりたいと思っていた私でしたが、
ここで友人が「山の方へ行ってみないか?」と言ってきました。

私もこのまま寝るよりは山で星でも見てからの方がよく眠れるかと思い、賛成しました。

夏だったため夜でも辺りは蒸し暑く、車から降りると早速汗が噴き出しました。

さっきまで疲れていた友人は、カメラを取り出し、なぜか疲れなど忘れたかのように歩き始めました。

しばらく友人の後について歩いていると、やがて見知らぬ祠の前に出ました。

私は直感的にヤマヌシを祀っている祠だと思いました。

友人は祠を写真に収め、なおも興味深そうに山の奥へと進んでいきます。

私も友人を置いていくわけにも行かず、そろそろ帰りたいところを我慢してついていきました。

そのとき、私たちは、「ヤマヌシのようなもの」に出会いました。

正確に言うと、ほとんど透けていてよく見えませんでしたが、明らかに何かがいるとわかりました。

しかし私は何度も見ているので、すぐにそれがヤマヌシだと理解しました。

本物を見て驚いたのか、友人はいきなり怖がりだし、私の後ろに隠れました。

私はむしろまた会うことができたのが嬉しくて、つい笑みがこぼれてしまいました。

「大丈夫だよ、幽霊とかとはちょっと違うから。」

私が友人にそう言った次の瞬間、ヤマヌシが物凄い速さでこちらに走ってきました。

私は動じませんでしたが、友人は私にしがみついてきました。

あのときのように、ヤマヌシは私の身体をすり抜け、どこかへ走り去っていきました。

「ああああああああああああああああああ!!」

友人が叫び声を上げ、その場に崩れました。

何事かと思い友人を見ると、両足の肉が縦に裂け、カメラは粉々に砕けていました。

私は、はっと爺ちゃんの話を思い出しました。

ヤマヌシは余所から入ってきた敵には容赦しない…

私はとんでもないことをしてしまったことに気づきました。

完全な余所者である友人を村に入れるどころか、
山にまで連れて行き祠を写真に撮らせるなんて。

その日は村の医者まで友人を連れて行き、なんとか友人を助けることが出来ました。

心配する家族にその日起こったことを話すと、こっぴどく叱られてしまいました。

これは数日後に気づいたんですが、私の背中に謎の×印のあざが出来ていました。

以前はなかったのできっとヤマヌシに付けられたのだろうと思います。

これが何を意味しているのか、私にはまだわかっていません…

パステルと俺の、別れの日がやってきた。

しかしそれは、決して悲しいことではなかった。

俺は今日、パステルを殺す。

それは俺達が出会うずっと前から決まっていたことだった。

そう、すべてに通じる理のように。

二人の時間はもう長くはない。

あとほんの少し時が経てば、俺はパステルをこの手で…

考えるだけでも吐き気に襲われた。

そんな俺をパステルが心配そうに見ている。

パステルだって今日自分の身に何が起きるのかを知っているくせに、なんだその笑顔は。

それは、俺を勇気づけるためだけに作っていい笑顔じゃない。

普段と完璧なまでに変わらぬ表情のパステルに、少し気分を落ち着けることができた。

そうだ、俺がやることはもう決まっている。

この日が来るずっと前から、そう決めていたじゃないか。

今、パステルが俺の手で死ぬ。

…いや、そんなことはさせない!

俺は一瞬でパステルに全ての生命力を移した。

この日のために、何年訓練してきたか。

完璧だった。

俺はその場に倒れ、もう二度と動くことはなかったが、
パステルは俺たちと同じ、本来の命を得ることができたようだった。

…ああ、これでいい。

薄れゆく視界の中で、最後に移ったのは、パステルの優しげな笑顔だった。

駄目だよ、そんな笑顔を見てしまったら、あっちに行くのが辛くなってしまう…

それは、俺にとってパステルが最後に残した、深く、温かい、傷痕だった。

                                      「パステルの残した傷痕」より

…これが、「パステルの残した傷痕」の最後の1ページに書かれていた内容だ。

この物語に出てくる“俺”とは、一体誰のことなのだろうか。

わかっているのは、この小説の真の著者こそが“パステル”であるということ。

パステルとは彼女のペンネームであり、作中のヒロインの名でもあった。
(以下、実在の人物としてのパステルについて話す)

それに加え、作中において自らをまるで自転車だとでもいうかのような独特の注釈を多用し、
その奇抜さにどうやら第一巻刊行当時から根強いファンもついているようだ。
(中には純粋に私のファンになってくれた方もいるようで、嬉しい限り)

最終巻となった本話を刊行した今、微量ではあるが、私の知り得る限りの真実を話そう。

パステルがこの世から姿を消したその日、彼女の自宅周辺で行方不明となった男性がいる。

どうやらその人物こそが、この物語に出てくる“俺”なのだろう。

“俺”とは一体誰なんだ…私の知る人物なのか?

どういうわけか、彼の情報はほとんど開示されておらず、私との関係も未だわからない。

だから、本当に彼が“俺”であるという確証もなく、私自身も動くに動けないのである。

ただ、古くからの友人であるパステルの家を訪ねた時、彼女の姿はなく、
この小説だけが卓上に残されていた。

それから何日経っても、何ヶ月経っても、結局彼女の行方は分からなかった。

私は彼女の手掛かりを掴みたい一心で、この小説を私名義で出版社に持ち込んだのである。

私がこの物語を世に出してしまったことは正しかったのか、未だに迷っている。

いや、きっと間違いだったのだろう。

彼女は昔から趣味でよく小説を書いていたのだが、そのすべてが自己投影によるものだった。

もし、その完成形としてこの小説が出来上がったのだとすれば、彼女はまさか…

いや、憶測でこの先を言うことはできない。

とにかく私は一刻も早く、本作品の真の著者であるパステルと再会し、
誠心誠意謝罪し、また感謝の言葉を伝えたいのである。

パステルさん、早く帰ってきてください。

子供の頃には両目に十字線があって、鉛直・平行がわかるようになっていた。

そのせいか道を歩いていてもちょっとした傾斜が気になってしまう。

本来は角度を測るためについていたんだろうが、
そんなときはよく首を斜めにして傾斜と平行線がうまく重なるように合わせたものだ。

登校中はそんな余裕がなかったが、やたら下校が遅かったのはそのせいだ。

慣れてくると走りながら道の傾斜に合わせて首を左右に傾けて家に帰るようになった。

まあ子供の頃といってもせいぜい小学校卒業くらいまでの話。

別に19歳までそんな状態が続いたわけじゃない。

中学生にもなると、こんな機能がついていることがおかしいってことに気付き始めた。

そこで十字線がついてないものと取り換えてもらった。

だからそれ以降は別に視界は他の人達となにも変わらない。

ただ、その時の癖だけはまだ残ってる。

窓に十字線がついてる強化ガラスとかあると、結構集中力がとぎれるっていうか。

ふと窓の外にある何かの傾斜と十字線を重ねようと首をひねってしまう。

…でも、決して合うはずはなかった。

だって、それは俺の目の十字線じゃないんだから。

俺がいくら動いてもその十字線は動いてはくれない。

たったそれだけのことで、俺たちはストレスが溜まるようにできているんだ。

一体誰だ、俺にこんな意味不明な試練を与えた奴は。

まあそれでもなんとか上手く付き合いながら今までやってきた。

でもそれも、どうやらもうすぐ終わりらしい。

今俺の目には、白い十字線が入っている。

あの頃と同じようで、絶対的に違う白い線。

もうすぐ視界の端まで届いてしまう。

そうなったらもう終わり。

知人の話によれば、俺の体は白い砂になってしまうらしい。

まあ、それを教えてくれた知人は既に俺の前から消えてしまったんだが。

…いや、奴は俺の目の前で消えたんだ。

今は一部だけ、この小瓶に入っているんだが…

「彼女は確かに月が綺麗だと思いましたか?」

という謎の文章を彼が一方的に口にしたのが、彼との最後の会話だった。

当時の僕は人間の思考を完璧に再現することのできる人間なんているはずないと思っていた。

だからこそ彼が何を言っているのか理解できなかったわけだ。

彼女はその日、月の見える丘へ行った。

目的は…しかし今、それを語ることはできない。

彼女は確かに、そこで月を見たのだ。

彼はその時、彼女のすぐ横にいて、その光景はとても綺麗だと思った。

そして、彼女は消えた。

今までいた彼女は、今はそこにあった。

このとき彼に残された時間も、もう残り少なかったはずだ。

最後の通信手段は、僕の認識では彼の携帯電話だった。

そこで彼はあんなことを言い残して、消えた。

たったそれだけのことだったのに、僕はいてもたってもいられなくなって。

それでこんなところまで足を運んでしまった。

起こったことは本当にそれだけ、そして一つ。

人間の思考を完璧に再現できる人間とは、つまり僕のことだ。

僕は月の見える丘に行って、彼の携帯電話を見つけた。

電話をかけてきたあの声は、確かに彼のものに違いなかった。

そうか、君は…

私はここで、さっき話した彼と彼女の物語を知った。

「ここ」とは、座標軸上での「この位置」でもあるし、時間軸上の「この時」も意味する。

足元を見ると、まだかすかに残っている。

君も、もしかしたら彼女も、まだここにあるのかもしれない。

つまり、私もこれで君たちの仲間入りということだ。

最後にこの文章を読んでいる全ての人に問いたい。

「彼は涙を流していただろうか?」

カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
必読・重要記事
新基(FAQ)

密集(コメントへの返答)

空言(掲示板リンク&使い方)

共感(カテゴリー解説)

拾人(管理人について)

総括(まとめ@wiki)
更新情報
総括」最終更新日:2014.03.09

年表」最終更新日:2012.09.17

分別」最終更新日:2012.10.09

評漫」最終更新日:2013.03.03

其肆」最終更新日:2013.03.03

七二」最終更新日:2013.03.24

柱線」最終更新日:2015.02.01

替歌」最終更新日:2016.08.14
ブログ内検索
過去アーカイブ
2018
01 02

2017
07 10 11

2016
01 02 03 04 05 06 07 08

2015
01 02 12

2014
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2013
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2012
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2011
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2010
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2009
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2008
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

2007
09 10 11 12
新着コメント
[02/18 わらもこと]
[06/15 拾人]
[06/12 s]
[10/23 ブラッディX]
[08/11 拾人]
最新記事
(02/10)
(02/04)
(02/03)
(02/01)
(01/31)
(01/30)
(01/29)
(01/28)
(01/27)
(01/26)
(11/28)
(10/25)
(07/08)
(09/25)
(09/08)
(09/04)
(09/01)
(08/23)
(08/11)
(08/07)
プロフィール
HN:
拾人
性別:
男性
QRコード
アクセサリ
忍者ブログ [PR]