逃亡

きっかけはこれといって限定しない。

ふとこんな場所から逃げ出してしまいたくなったとき、あなたはどうするか。

まずその存在は、周囲から独立したものでなければならないし、
また、この行為が周囲に影響を及ぼす状況も好ましくない。

何らかの手段で徹底的に他を排除するか、あるいは自らの存在を犠牲にするか。

ただし、大抵の場合、その手段では動機にあたる不満を満足させることはできないので、
その選択肢は初めに排除されるべきだが、これによって一段と困難になることは間違いない。

さらに独立は年齢によって限定され、その後も年齢の存在によって様々な制限を受ける。

まずは時期を待つ事が大切なのだ。

遅かれ早かれ、そのタイミングはやってくる。

これを見誤れば、結果は目に見えて悪く、さらには周囲にも迷惑をかけかねない。

それ自体が動機でない場合、そのような事態は避けたいところだ。

ただ、意外にもこれは簡単に回避できる。

一つだけ嘘をつけばいい。

他人には逃げるのではなく旅にでも出かけると思いこませる。

その時点では他人にそれを止める理由も特にないうえ、
旅に出ることに疑問を抱くものも普通は存在しない。

その後は短い期間ではあるが、それでも余裕を持って準備ができるだろう。

自分にとって理想的な結果は準備を怠る者にはやってこない。

だがその前に、一つだけ確認しておかなければならないのは、
今後一切この場所には戻ってこられないということ。

さらには他の場所においても自分を知った者と出くわすのは避けたい。

その場合、親は存在しないことが好ましいが、間違っても殺してはいけない。

そんなことをすれば、自分を捜す存在を増やすだけだからだ。

しかもそれらはいつどんな格好・手段で迫ってくるか一切わからない。

こんな危険な存在を作り出すくらいなら、親に捜された方がマシであることは言うまでもない。

そしてこの準備だが、本来は長ければ長いほどよい。

ここで言う長いとは、年単位の話だ。

この国では、安全な移動にはとにかく金がかかる。

金がないことが即ち失敗なのだ。

「失敗につながる」などといった甘い考えではいけない。

もう一つ、重要なのが、どこに逃げるか。

これが意外と面倒で、親戚を考えただけでも実に広範囲に分布しており、
さらにその親等も考えると、例えば九州に親がいれば、最低でも近畿までは広がるだろう。

東京は知人がいる可能性も高いが、人間そのものの絶対値が多いので意外にも理想的といえる。

そして人が多いということは、資金の調達にも向いているということだ。

人が多ければ、自ずと如何なるものにも需要は増える。

そして一番の利点は、見つかった後の逃亡が楽なのだ。

十分に資金を調達してさえおけば、すぐに海外へ逃亡することも可能。

この際、すぐ逃げるよりも、見つかった時点で一度諦めたように見せかけ、
近くのホテルに宿泊して深夜帯に再び逃げ出すという手法が好ましい。

ただし、海外へ逃亡するなら、言語、治安、政治、宗教等の要素も考えなければならない。

よって私が推薦する逃亡先は東京。

尚、一度逃亡した者には、周囲の自分に対する印象に関して、疑心暗鬼が始まる。

元の場所に帰りたいという気持ちが少しでもあるならば、逃亡はお勧めしない。

ところで、「これではただの上京ではないのか」などという質問は受け付けない。