虚節イッター:記事を更新したいお年頃になってしまったようです
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「焦ることはないさ…コーヒーなどいかがかな?」
「いえ、私コーヒーは苦手で…」
相談に乗るふりをしてコーヒーを勧めるのがこの店主の常套手段らしい。
結局頼むことになってしまったアイスティーを飲みながら、私は店内を見回した。
店内は掃除も隅々まで行き届いていて、清潔だった。
音楽もかかっていたが、音量はそれほど大きいわけではない。
選曲は店主の趣味だろうか。
「私の弟は確かにここに来たんですね?」
「ああ、確かにこの顔だった…この道も長くてね、顔の記憶には自信があるよ。」
僅かに笑みを浮かべながら店主は答えたが、その笑みが作りものであることは明らかである。
自分の身に起こったと考えれば、これは決して笑っていられる状況ではない。
無意識に窓の外の人混みを見ていた。
視線を落とすと、ふと目についた植木鉢、そこに植えられている花はデンドロビウム、
幼い頃にはよく家の玄関に飾られていたが、弟と暮らし始めてからは遠い存在になっていた。
「しかし、君も大変だね、こんなことになってしまうなんて…」
店主は心配しているかのような言葉を私に投げかけたが、それは決まり文句のようなものだ。
弟が見つからなければ、私は今後も幾度となくこの言葉を聞くことになるだろう。
「大変ですか…考えてもみませんでした…私は弟を見つける、それだけです。」
「格好良いね、私も一度はそんなセリフを言ってみたいものだ…いや、失礼。」
「いえ、大丈夫です。」
人間誰しも歳を取ったからといてそれに比例して賢くなるわけではない。
こういった会話の端々にその人間の品格が現れるものだ。
この店でこれ以上の情報を手に入れることはできないだろう。
私はアイスティーを3分の1ほど残し、代金を払って店を出る。
扉を開けると、昼下がりの生暖かい風が私を包み込んだ。
路面のアスファルトは、さっき降った雨のせいで酷い臭いを放っている。
弟を見つけたら、まず私の方から謝らなければならない。
そして、もう二度とこんなことが起こらないよう、もっと弟のことを大切にしよう。
頭で考えるのは簡単だが、実際に弟を見つけたらどうなるかわからない。
弟が見つかるかという問題以上に、私にはそのことが心配だった。
3
気がつくと、薄暗い部屋の中にいた。
俺の隣には見知らぬ女が寝ている、どうやら昨日の店から連れ帰ってきたらしい。
こんな光景は、俺にとってはそれほど珍しいことではなかった。
時計を見ると既に8時を過ぎている、俺もいつまでも寝ているわけにはいかない。
とりあえず、女には帰ってもらうことにした。
熱めのシャワーを浴びていると、ふと用事を思い出す。
今日は李沙に会わなければならない、なんでもあいつの弟がいなくなったらしい。
俺が探偵なんて仕事をやっているばっかりに、タダ同然で働かされることになってしまった。
俺だって数少ない友人は大切にしたいが、一刻も早く弟を見つけ出して本業に戻らなければ。
ただでさえ赤字覚悟の仕事だというのに、想像するだけでも恐ろしい。
幸い前回の依頼でかなり懐が温まっているため、当分は金に苦労することはなさそうだが、
ふとした拍子に一文無しなんてことが普通にあるのがこの業界だ。
まあ、本当は金がなくなるだけならまだいい方なんだが…
窓の外は生憎の雨だったが、天気予報では昼頃には止むらしい。
いつものようにお気に入りのサングラスをかけ、散らかった部屋を後にする。
「さて、ただの家出だといいんだがな…」
愛車の低いエンジン音に体を震わせながら、待ち合わせ場所を目指し発進した。
4
「ここより先は、本来人間の及ぶ範囲ではございませんが?」
「構わねえよ。」
それが俺の選んだ道だ、この世界には鬼が住む。
数えきれないほど無数に存在するその鬼達は、いつ俺を襲ってくるかわからない。
ならば俺自身がその鬼になってしまえば、話は一気に簡単になる。
むしろ話はそこで終わりだ、あとはどちらが狩るか、狩られるか。
とにかく、「狩られる」だけしか選択肢のない状況なんて考えたくもない。
「後戻りはできませんよ?」
「うるせえな…ブチ殺すぞ、カスが。」
「先が思いやられますね…せいぜいしぶとく生き延びてくださいね、期待していますから。」
しかし何度見ても胸糞悪い笑い方だ、今すぐ殴り飛ばしてやりたくなる。
それでも俺が人を捨てるためには、こいつの力が必要なんだ。
今さらあれこれ考えててもはじまらねえ、まずはてっとり早くぶっ飛ぶだけだ。
「さあ、始めようぜ。」
「では…」
「いえ、私コーヒーは苦手で…」
相談に乗るふりをしてコーヒーを勧めるのがこの店主の常套手段らしい。
結局頼むことになってしまったアイスティーを飲みながら、私は店内を見回した。
店内は掃除も隅々まで行き届いていて、清潔だった。
音楽もかかっていたが、音量はそれほど大きいわけではない。
選曲は店主の趣味だろうか。
「私の弟は確かにここに来たんですね?」
「ああ、確かにこの顔だった…この道も長くてね、顔の記憶には自信があるよ。」
僅かに笑みを浮かべながら店主は答えたが、その笑みが作りものであることは明らかである。
自分の身に起こったと考えれば、これは決して笑っていられる状況ではない。
無意識に窓の外の人混みを見ていた。
視線を落とすと、ふと目についた植木鉢、そこに植えられている花はデンドロビウム、
幼い頃にはよく家の玄関に飾られていたが、弟と暮らし始めてからは遠い存在になっていた。
「しかし、君も大変だね、こんなことになってしまうなんて…」
店主は心配しているかのような言葉を私に投げかけたが、それは決まり文句のようなものだ。
弟が見つからなければ、私は今後も幾度となくこの言葉を聞くことになるだろう。
「大変ですか…考えてもみませんでした…私は弟を見つける、それだけです。」
「格好良いね、私も一度はそんなセリフを言ってみたいものだ…いや、失礼。」
「いえ、大丈夫です。」
人間誰しも歳を取ったからといてそれに比例して賢くなるわけではない。
こういった会話の端々にその人間の品格が現れるものだ。
この店でこれ以上の情報を手に入れることはできないだろう。
私はアイスティーを3分の1ほど残し、代金を払って店を出る。
扉を開けると、昼下がりの生暖かい風が私を包み込んだ。
路面のアスファルトは、さっき降った雨のせいで酷い臭いを放っている。
弟を見つけたら、まず私の方から謝らなければならない。
そして、もう二度とこんなことが起こらないよう、もっと弟のことを大切にしよう。
頭で考えるのは簡単だが、実際に弟を見つけたらどうなるかわからない。
弟が見つかるかという問題以上に、私にはそのことが心配だった。
3
気がつくと、薄暗い部屋の中にいた。
俺の隣には見知らぬ女が寝ている、どうやら昨日の店から連れ帰ってきたらしい。
こんな光景は、俺にとってはそれほど珍しいことではなかった。
時計を見ると既に8時を過ぎている、俺もいつまでも寝ているわけにはいかない。
とりあえず、女には帰ってもらうことにした。
熱めのシャワーを浴びていると、ふと用事を思い出す。
今日は李沙に会わなければならない、なんでもあいつの弟がいなくなったらしい。
俺が探偵なんて仕事をやっているばっかりに、タダ同然で働かされることになってしまった。
俺だって数少ない友人は大切にしたいが、一刻も早く弟を見つけ出して本業に戻らなければ。
ただでさえ赤字覚悟の仕事だというのに、想像するだけでも恐ろしい。
幸い前回の依頼でかなり懐が温まっているため、当分は金に苦労することはなさそうだが、
ふとした拍子に一文無しなんてことが普通にあるのがこの業界だ。
まあ、本当は金がなくなるだけならまだいい方なんだが…
窓の外は生憎の雨だったが、天気予報では昼頃には止むらしい。
いつものようにお気に入りのサングラスをかけ、散らかった部屋を後にする。
「さて、ただの家出だといいんだがな…」
愛車の低いエンジン音に体を震わせながら、待ち合わせ場所を目指し発進した。
4
「ここより先は、本来人間の及ぶ範囲ではございませんが?」
「構わねえよ。」
それが俺の選んだ道だ、この世界には鬼が住む。
数えきれないほど無数に存在するその鬼達は、いつ俺を襲ってくるかわからない。
ならば俺自身がその鬼になってしまえば、話は一気に簡単になる。
むしろ話はそこで終わりだ、あとはどちらが狩るか、狩られるか。
とにかく、「狩られる」だけしか選択肢のない状況なんて考えたくもない。
「後戻りはできませんよ?」
「うるせえな…ブチ殺すぞ、カスが。」
「先が思いやられますね…せいぜいしぶとく生き延びてくださいね、期待していますから。」
しかし何度見ても胸糞悪い笑い方だ、今すぐ殴り飛ばしてやりたくなる。
それでも俺が人を捨てるためには、こいつの力が必要なんだ。
今さらあれこれ考えててもはじまらねえ、まずはてっとり早くぶっ飛ぶだけだ。
「さあ、始めようぜ。」
「では…」
PR
この記事にコメントする
カレンダー
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
更新情報
ブログ内検索
過去アーカイブ
2018
01 02
2017
07 10 11
2016
01 02 03 04 05 06 07 08
2015
01 02 12
2014
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2008
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2007
09 10 11 12
01 02
07 10 11
01 02 03 04 05 06 07 08
01 02 12
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
09 10 11 12
カテゴリー
最新記事
(02/10)
(02/04)
(02/03)
(02/01)
(01/31)
(01/30)
(01/29)
(01/28)
(01/27)
(01/26)
(11/28)
(10/25)
(07/08)
(09/25)
(09/08)
(09/04)
(09/01)
(08/23)
(08/11)
(08/07)
プロフィール
HN:
拾人
性別:
男性
アクセサリ